2020年7月23日木曜日

ブックレビュー『わたしを離さないで』



タイトル:わたしを離さないで
著者:カズオ・イシグロ
訳者:土屋政雄
出版年:2008年8月
ページ:439
レート:4.5/5☆



著者・作品について


1954年長崎県生まれ。1960年家族とともに渡英。日本とイギリスの二つの文化を背景に育つ。1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞。2005年『私を離さないで』がイギリスで発売され世界的ベストセラーに。2010年には本書がイギリスで映画化。日本では2014年に舞台化、2016年にテレビドラマ化された。2017年にはノーベル文学賞を受賞。



あらすじ


主人公キャシーの回顧録。
キャシー、トミー、ルースの主に3人の登場人物の人間関係を中心にして、彼らの奇怪な運命と作品全体の世界が、ページをめくるごとに徐々に見えてきます。

幼い頃から「ヘールシャム」と呼ばれる施設で一緒に育ってきた3人は、ある使命を果たすために生まれてきました。
それぞれの使命を果たし終えた今、キャシーは、「ヘールシャム」での日々、ヘールシャム卒業後のコテージでの生活、介護人や提供者としての使命を果たしてきた様子を語っていきます。



感想


奇怪な世界にもかかわらず、人間関係はとても切実でリアルです。
人間関係だけをみると、心情描写が細かく、主人公のキャシーと一緒にモヤモヤとしてしまいそうですが、この本では何か一線を画するものがありました。
それはこの本がとても抑制がきいた語り口だからなのかもしれません。
その一線とはなにか、何が一緒で何が違うのかを整理して読む必要がありました。

キャシーとトミーにはあって、ルースにはないもの。
トミーとルースにはあって、キャシーにはないもの。
トミーにはあって、キャシーとルースにはないもの。
「ヘールシャム」にはあって、外の世界にはないもの。
わたしたちにはあって、かれらにはないもの。

これらそれぞれの違いや共通点をみつけていくたびに、「あぁ、そうだったのか」と全てが繋がっていくと同時に、その一線がはっきり見えてきます。

わたしは、この本の登場人物のなかで一番トミーに惹かれました。
彼が、とくに不思議な存在だったからかもしれません。

ちなみに、「わたしを離さないで」の日本のテレビドラマでは、三浦春馬さんがトミー役を演じていたそうです。
当時このドラマは知りませんでしたが、この本を読んで今になって思うのは、三浦春馬さんが演じている姿を見ておきたかった。
と思ったら、TBSオンデマンドで発見しました。
 Amazonプライムの方なら追加料金なしで視聴できるみたいですね。









2020年7月16日木曜日

ブックレビュー『モモ 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語』



タイトル:モモ 時間どろぼうと盗まれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語
著者:ミヒャエル・エンデ
訳:大島かおり
出版年:1976年
ページ:360
Rate:5/5☆

1974年ドイツの児童文学賞を受賞した作品で、各国で翻訳されており、日本でもたいへん人気のある1冊です。

対象年齢は小学校高学年からとなっていましたが、大人だからわかる面白さ、時間と日々の生活について改めて考えさせられる本でした。



あらすじ


物語は、モモという1人の孤児の女の子を囲む日常から始まります。
時代はいつなのかわからない、場所もどこかわからない、けれどもモモの住む円形劇場跡の描写が、イタリアの古い街を思わせます。

モモは、人の話を静かにじっくり聞くことが好きな女の子です。
みんなはモモに話を聞いてもらうだけで不思議と心が満足するので、モモの周りにはいつも人がいます。
そんな平和な街に、ある日から少しづつ不穏な空気が漂い始めます。

見るだけで冷たく生気をすいとられてしまいそうになる「灰色の男たち」の出現です。
彼らは、時間を倹約して「時間貯蓄」をすればよりよい人生を送れると言い広め、町の人々から時間を取り上げていきます。

時間貯蓄に励む人たちはお金をたくさん稼ぐようになり、いい服装もしています。
けれども、「時間がない」「そんな暇はない」
そう言ってどんどん怒りっぽく、不機嫌でくたびれた顔をして日々を過ごしていきます。
かれらは自分たちの生活がせわしなく、日ごとに画一的で冷たくなっていくのを認めようとはしませんが、子供たちは、はっきりとそれを感じています。

モモはそんな町の人たちを救うため、灰色の男たちに挑んでいきます。


感想


「もっと時間があったら、ゆっくり本を読んだり子供と遊んだり好きなことができるのに…」
そう思いながら、
「1分1秒でも早く、さっさと終わらしてしまおう!」
「無駄をなくして効率的に!」
いつかわからない将来のために、頭や体はフル回転で、忙しくせわしなく動いていますが、時間はいっこうに足りません。
「もう遅いから寝よう」
いったい時間はどこにいったのでしょうか?

こう思うのは、いま目の前にあるものが見えなくなってしまっているからのような気がします。
もしかしたら2度と見ることのない瞬間を逃がしているからなのかもしれない。
いつか、いつか、と言っているうちに、あっという間に子供は成長し、もう一緒に遊んでくれないかもしれない。

なんだかゾッとしました。

『モモ』を通して、全く気付いていないわけではないけれど認めたくない自分の姿を見ているようで、自分にとって何が一番大事かを考えさせられました。

『モモ』は児童文学でありながら、奥が深く大人が読んでも十分楽しめる1冊です。















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